第21回 R2.11.17 「歯を守る栄養」と「歯が守る栄養」
皆さん、こんにちは。
POPS研究会代表の呉(おう)です。
コロナ禍も一旦落ち着いたものの、第3波が襲来してきました。
当院でも気を引き締めて、前回、お伝えした、免疫力アップ宣言を患者さんにお伝えしています。
さて、今回は口腔と栄養のお話です。
「歯を守る栄養」と「歯が守る栄養」
歯科医院で保健指導を行う上で、いつも問題になるのは、口腔と一見関係のない、運動や食事の話の切り出しが難しいことです。
今回は、歯科医院でどのように患者さんにスムーズに健康啓発を行い、それがさらなる信頼関係を気づき、定期検診の受診率向上につなげ、
また、栄養指導を中心とした保健指導を自費で行うかについてお伝えします。結果として、歯科医院での保健指導を経営に結び付けていきます。
鶴見大学の花田信弘教授が提唱されている「歯が守る栄養」と「歯が守る栄養」をご紹介させていただきながら、上記の課題をスムーズに解決できる道筋をお示ししたいと思います。
今回は「歯を守る栄養」についてまとめていきます。
「歯を守る栄養」
現代食の罠
高度に調理された現代食の特徴の一つは低分子化されていることです。例えば、脂肪と加工食品が多い西洋型の食事を取る人では、
肥満やインスリン抵抗性、心血管疾患などとの関連が指摘される悪玉菌の有毒成分であるエンドトキシンが多い傾向がみられます。
ネアンデルタール人やチンパンジーと比べると現代人の口腔内はエンドトキシンと関連するグラム陰性菌の割合が多いことがわかっています。
また、原始的な食事(ヤギ1頭で原始的な調理のみで)で4週間生活すると、歯磨きしないでも、歯肉の出血やポケットが減少したという実験報告もあります。
1930年代にはウェストンプライス歯学博士が世界中をフィールドワークして、伝統食を守っている種族と近代食が入ってきた種族の口腔内を調べました。
近代食に侵された種族は一世代で、急速にカリエスがすすみ、次世代では歯列不正が相次いだことを報告しています。
これはまさしく、近代(欧米)食による全世界的な人体実験と言えるでしょう。
もうすでに世界のいたるところで食の近代化が広まった現代では2度とできない人体実験だったのです。
我々歯科医療従事者は、ウェストンプライスの偉大な功績を風化させずに、現代食を理解して、
どのような栄養素を口の味方につけるか敵にするかの分別をつける必要があります。
まず、我々歯科医療従事者がその理解を深めて、歯を守るための栄養指導を行います。
カリエスや歯周病に影響を及ぼす栄養素に関する論文は多数存在しますが、詳しい内容は、
花田信弘先生、武内博朗先生執筆の「歯を守る栄養学と歯が守る栄養学」(「New Diet Therapy」誌 2020年 vol35 no.4 p59〜)に掲載されています。
https://www.jcna.jp/about/new-diet-therapy/
にアクセスしたら、雑誌を購入できますので、興味のある方はアクセスしてみてください。
上記の内容を以下に簡単にまとめました。
カリエスと栄養
@単糖類は避ける
例.ほぼすべての500ml以上の甘味飲料水摂取で、WHOの単糖類摂取基準をオーバーして、カリエスと肥満がハイリスクになる。
Aなるべく低GI値の炭水化物を摂取する
例.精白米→玄米 食パン→全粒粉パン うどん→日本そば コンフレーク→シリアル
Bカルシウム摂取で歯質強化
例.乳製品を摂って歯質強化
歯周病と栄養
@低タンパク質にならないようにする
例.可撤式義歯などにより、咀嚼力、粉砕力が限られる場合、魚類、豆腐、ヨーグルトなどの軟性タンパク質の摂取
Aオメガ3脂肪酸の摂取で歯周病になりにくい
例.イワシ、サバなどの青魚
BビタミンD摂取でカリエスと歯周病予防
例.キノコ類
Cマグネシウム摂取で歯周病予防の効果が期待できる
例.そば、のり、豆腐、納豆
D抗酸化物質を含む食品は歯周病予防効果が期待できる
例.ニンジン、ピーマンなどの緑黄色野菜
歯を守るための栄養とその食材
- オメガ3脂肪酸・・・サケ、マグロ、マスなどの脂の多い魚、カニ、ムール貝、カキ
- 抗酸化物質・・・緑黄色野菜、フルーツの黄色、オレンジ、赤色の色素成分
- ビタミンC・・・赤ピーマン、黄色ピーマン、ブロッコリー、キーウィ、菜の花
- 葉酸・・・枝豆、モロヘイヤ、干し椎茸、パセリ、ほうれん草、アスパラガス
- マグネシウム・・・そば、のり、ひじき、豆、豆腐、五穀、ごま、さつまいも、納豆
- 食物繊維・・・穀類、豆類、イモ類、野菜(ごぼう、ふき、セロリ、アスパラガス、
- キャベツ、白菜、果物(かんきつ類、バナナ)、
- キノコ類、海藻類(わかめ、寒天)
- ビタミンD・・・メカジキ、キノコ類、ヨーグルト、牛乳、サーモン、牛レバー、イワシ
- タンパク質・・・肉類、魚介類、卵類、大豆製品、乳製品
- カルシウム・・・乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト)、骨ごと食べられる小魚、豆腐や納豆
- 低GI値・・・玄米、全粒粉パン、そば、中華そば、シリアル、春雨
例えば、ヨーグルトはビタミンDカルシウム、タンパク質も豊富で、カリエスや歯周病の予防にもなる一方で、
継続的なヨーグルト摂取によりIgA抗体が増えることが報告されていて、免疫力維持も期待できます。
コロナやインフルエンザの感染予防も期待できます。
したがってヨーグルトはまさに「一石三鳥」の食材といえます。
個人的にも毎朝、ヨーグルトは食べています。
さて、基本的な「歯を守る栄養」について、理解した中で、どのように患者さんを栄養指導に結び付けていくかを考えます。
すでにカリエスや歯周病のある患者さんには「治療」
として、栄養指導の介入をするのは比較的容易ではないかと考えます。
その際にこの比較写真を見せて、近代食の罠を意識付けさせると効果的だと考えます。
また、今、歯周病やカリエスがなくても将来のリスクに備えるために普段の食習慣を見直すことを提案すると、ターゲット患者層は格段に増えます。
衛生士が栄養指導するなら、患者さんの食習慣に合わせて、上記の食材の中から、ヨーグルトなど一つ食材を取り上げて、ワンポイントでアドバイスすると、
患者さんとの信頼関係構築にも役立てられると思います。
また、管理栄養士のいるクリニックでは、衛生士から「歯を守る栄養」の重要性をお伝えした後、管理栄養士に引き継いで、
食習慣などのヒアリングをしたり、ヒアリングシートに記入してもらって、もっと踏み込んだ栄養指導ができます。
この際は医したがって院に見合ったカウンセリング料も設定する必要があると思います。
このように、口腔と栄養は、栄養摂取という観点だけではなく、「歯を守る」観点で非常に強い関連性があります。
日常的にブラッシングなどの廓清除去だけでなく日常の食習慣から歯を守るという発想も非常に重要であると考えます。
個々の歯科医院の患者層やスタッフの実情に合わせて、うまく「歯を守る栄養」を活用して、健康増進型歯科医院を目指しましょう。
次回は「歯が守る栄養」について考えます。
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第3回POPS特別例会のご案内-令和3年1月24日(日)
来年の1月24日(日)に第3回POPS特別例会をハイブリット(会場とZOOM)で開催することにしました。
演者と希望者は会場で、そのほかはリモートで参加できます。参加費は会場、リモートいずれも無料です。
今回は管理栄養士の歯科医院での役割を考えます。
基調講演では「管理栄養士と歯科医院経営」と題して、現在の特定保健指導とその具体的な歯科の参入について考えます。
また、補綴治療と栄養指導をセットにして、自費の保健指導へスムーズに展開する方法について実例を交えてお話しします。
そして、今回のメインテーマは「ライフステージに合わせた歯科医院での管理栄養士の役割」です。
乳幼児期、青年期、壮年期、高齢期のそれぞれのライフステージに合わせた歯科医院での管理栄養士の役割をPOPSメンバーが各医院の実情に合わせて、発表します。
自院の患者層やスタッフ構成などに合わせて、参考にしていただけばと思います。
タイムスケジュールは以下の通りです。
管理栄養士と歯科医院経営 呉 (13:00-13:30)
現在の特定保健指導との歯科の参入の可能性
補綴治療と栄養指導
ライフステージに合わせた歯科医院での管理栄養士の役割(13:30-15:30)
乳幼児期に対する歯科医院での管理栄養士の役割 藤田(13:30-14:00)
青年期に対する歯科医院での管理栄養士の役割 増田(14:00-14:30)
壮年期に対する歯科医院での管理栄養士の役割 呉(14:30-15:00)
高齢期に対する歯科医院での管理栄養士の役割 石川(15:00-15:30)
結語 呉 15時30-15時40分
※各回、20分発表 10分質疑応答と入れ替わり
ハイブリットなので、コンパクトにまとめますが、非常に質の高い内容になっています。
管理栄養士のいる歯科医院様、今後管理栄養士採用を検討している歯科医院様におかれましては、
非常に役に立つ内容になっていますので、奮ってご参加ください。
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では、今後とも「みんなの元気を支える歯科」を考える会、POPS研究会を宜しくお願いします。
呉 沢哲
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