食べないことが健康にいい??

 

 

 

一日三食、食べるのは当たり前。現代の日本に暮らす大多数のみなさんは、おそらく何の疑いもなく、そう考えているはずです。

でも、人間が三食、満腹になるまで食べられるようになったのは、わずかにここ数十年のこと。100年にも満たない、つい最近の話です。

 

国内でいえば戦後の焼け野原から復興して高度経済成長を迎えて以来のこと、少なくとも戦前・戦中もそれ以前も、一般庶民がお腹いっぱい食べられるということはなかったのです。そもそも食事が決まった時間にできるようになったのは、稲作文化が始まってからの4000年ほど前からです。それまでの16万6000年という間は狩猟文化の時代で、獲物がとれないときは何日間も食事にありつけなかったのです。

もっとも、稲作時代になってからも、天変地異や気孔の変動による飢饉が世界中のあちこちで幾度となく繰り返されました。

 

飢餓は現代に至っても続いており、日本やアメリカ、ヨーロッパなど、ごく一部を除いて、世界の大半の国はいまだに飢餓の危機にさらされているのです。

 

WFP(世界食糧計画)が公表している「ハンガー・マップ」によれば、

 

アジア、アフリカ、中南米などが濃く塗られた飢餓状態であることがわかる。

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ところがハンガー・マップを見ていると、あることに気付きます

 

それは飢餓状態にある国こそ出生率が高いことです。20090205_536094

 

 

飽食状態にあって一見幸せそうな先進国では出生率が極めて低く、人口が減少しつつあります。こうした生命力の差はどうして生じるのでしょうか。人類の長い歴史は、飢餓はもとより、天変地異、伝染病の蔓延、戦争といった危機の繰り返しでした。

 

飢餓状態の国では人口爆発が問題になっている中で、先進国ではどんなに科学の枠を結集しても出生率の低下に歯止めをかけることはできません。人工授精などの生殖医療をもってしても人工を増やすことができないのです。

 

それは人種の問題で、日本人は妊娠率の低い民族なのでしょうか。

いいえ、私たちの祖父母の時代、戦前までは一夫婦で、四、五人の子供がいるのが普通だったのです。

つまり、人類存亡の危機を何とかかいくぐって、生き延びてきた者の子孫である私たち現代人は、飢えや寒さや感染症のときこそ生きる力が湧いてくる「生命力」というものがあるのです。

その生命力の源こそが、私たち人類が危機を乗り越えることによって獲得してきた「生命力遺伝子」なのです。

ただやっかいなのは、飢えや寒さの状態におかれないと生命力遺伝子は働かないこと。さらに飽食状態では逆に、体を老化させ、出生率を下げ、免疫が自分の体を攻撃するほうに働いてしまうことです。

 

 

食べ過ぎこそ病気の始まり

 

高度経済成長を迎えたあたりから、テレビや雑誌ではグルメ特集が増え、「飽食」が日本中をおおいつくすようになりました。「食欲」という動物的欲求を解放してしまったのです。

毎日欠かさず、三度三度お腹いっぱいに食べることが、本当に体にとって健康的なのかと問われれば、明らかに「NO」といえます。栄養は足りていなければたしかに病気になりますが、体内の生命力遺伝子はその病気を治療・予防するために働きます。しかし食べ過ぎたときに働く生命力遺伝子はほとんどない為に、飽食と誤った食生活によって病気になっている人が、あとを絶たないのです。

「癌・心臓病・脳卒中・糖尿病」という四大疾患のいずれも、食生活‐食べ過ぎによる肥満やバランスを欠いた食習慣が原因となっていることが明らかになっています。

 

 何歳になっても若く健康で、はつらつとしたクオリティ・オブ・ライフを保ち続けるためには、食生活の改善、ことに飽食を止めることが必要不可欠なのです。

 

 

 

満腹には適応できない現代人の体

 

私たちの祖先は、飢えと寒さに代表される過酷な環境を生き抜く長い進化の中で、「生命力遺伝子」と呼ばれるサバイバル遺伝子を獲得してきました。私たちの体の中には、飢えや寒さに適応できる仕組みがすでに備わっているわけです。

私たちの体は環境の変化に適応するために常に最適化されるようにできています。「生命力遺伝子」にちていえば、飢えと寒さにおかれたときほど活性化するというわけです。

 

ところが厄介なことに、遺伝子の最適化は一度ある条件に設定されると、環境が変化してもうまく適応できないというデメリットがあります。新しい環境に適応するためには、再び何万年という進化の過程を経なければならないのです。

 

つまり私たちは飢えに対して非常に高い適応力を発揮する力を獲得したが、急激な飽食状態に対しては無力であるばかりか、逆に生命力が有害に働く、ということなのです。

 私たちの体は飢えには強いけれども、満腹には適していないのです。

17万年に及ぶ人類.人類の歴史は、飢えと寒さとの戦いであって、その中お腹いっぱい食べることができた時期は、わずかに100年にも満たないのだということをもう一度思い出して下さい。

 

一日のエネルギー消費量を上回る高カロリーの食事を、毎食、満腹するまで食べ続けている生活。この豊かすぎる食生活に適応できなくなってしまった人々は、今急激に体質の変革を迫られています。

そこで登場したのが、「国民病」ともいわれる糖尿病です。糖尿病人口はガンや心臓病を上回っています。

 

 戦後、すべての国民が皆、お腹いっぱい食べられる国を目指してきました。その中で、今度は逆に、飽食が糖尿病をはじめとする様々な形で、私たちの体をむしばむ要因をつくっているとしたら、なんとも皮肉な話ではないでしょうか。

 

『空腹』が人を健康にする  南雲吉則  より引用

 

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