「1975年の食事」健康長寿のヒント

東北大チーム 各年代の献立を科学的に分析

健康で長生きするには、1975年ごろの日本の食事がよさそうだ。東北大学大学院の都築毅准教授(食品機能学)らのチームが、こんな研究に取り組んでいます。最新の実験では、実際に1カ月近く当時の食事を食べ続け、効果を確認したといいます。

 

 

肥満度・コレステロール値低下

都築さんらが研究を始めたのは2005年。以前から日本食は健康によいと言われてきましたが、「個別の食材や栄養成分についての研究はたくさんあるのに対し、食事を丸ごと科学的な手法で分析し、根拠を得た研究はあまりなかった」と、都築さんは動機を話します。研究チームは、国の栄養調査や当時の料理番組などをもとに、1960年、75年、90年、2005年の各年について、平均的な1週間の献立を再現して、マウスに食べさせて寿命や病気のリスクなどを調べました。すると、寿命▽肥満度▽認知機能▽糖尿病や脂肪肝の発症リスク▽毛のつや、脱毛などの指標で、いずれも75年のグループが最もよい数値を示しました。2016年からは、92人の協力を得て、実際に食べて効果をはかる実験に移行して、75年の食事と現代食(15年当時)を二つのグループに割り当て、どちらかを28日間続けて食べてもらいました。この結果、軽度の肥満者30人ずつの実験で、現代食のグループが体重、腹囲、BMI(肥満度を表す体格指数)いずれも増えたのに対し、75年のグループは減り、糖尿病の指標、血漿中のコレステロール値なども下がりました。さらに、20代の健康な人でも調査し、週に3回、1時間ほどの運動もしたうえで変化を見たところ、75年のグループは、体重、体脂肪率、コレステロール値が減り、瞬発力、持久力などの運動能力が上がりました。また眠りの質にも向上が見られました。都築さんは「思ったよりも、はっきりした結果が出て驚いた。『1975年型の日本食』が健康に寄与することが科学的に裏付けられた」と話します。

 

 

油少なく魚多い和食+時々洋食 バランス良好

75年ごろの食事には、どんな特徴があるのでしょうか。都築さんによると「和食+ちょっと洋食の食事」で、今と比べ1回の食事でとる食材の種類が豊富だといいます。魚と肉が8対3くらいの割合で、主食はご飯が多いです。油を多く使う揚げ物、炒め物は少なく、味付けには主にだしや醤油など発酵系調味料を使っていました。

 

75年前に比べると、肉やパン、乳製品などの食材が豊かになりました。伝統的な和食は、ごはんを食べるために味の濃いおかずや漬物をよくとり、塩分が多いことが欠点でしたが、食が多様化したことで塩分摂取量が減りました。75年ごろといえば、テレビや冷蔵庫が一般家庭に広まった時期で、68年にはレトルト食品の先駆け「ボンカレー」が発売され、70年代には米国発のファストフード、コンビニエンスストアが相次いで登場しました。流通が発達して多彩な食材が手に入るようになり、雑誌やテレビの料理番組を通じてプロのレシピが全国の家庭に届くようになりました。

 

 

医学博士で管理栄養士の本多京子さんは当時の食事について「コンビニなどが普及しておらず、各家庭で料理をしていた。ご飯とみそ汁におかずの伝統的な食事のよさに、時々ハンバーグやグラタンが加わり、栄養面でバランスがとれていた」と見ます。戦後の摂取エネルギーの推移を見ると、60~70年代ごろが高く、近年は食糧難だった戦後並みにまで減っています。活動量が減ったことに加え、朝食を抜く人がいることなどが影響しているとみられます。本多さんは「自分の都合で好きなように食事ができるようになった結果、食べ足りずに低栄養な人がいる一方で、食べ過ぎでメタボの人もいる」と問題視します。都築さんは「外食や中食を利用する時にも、食材の数を増やし、少しずついろいろなものを食べることが大事。研究をさらに深め、調理や食べ方のポイントをより分かりやすく示せるようにしたい」と語ります。

朝日新聞2018年10月8日(月)