訪問歯科診療って?
訪問歯科診療って、ご存知ですか。
実は、家にいながら歯医者さんがご自宅や施設にお邪魔して、治療を受けることができます。
もちろん、保険診療です。
しかし、誰でも歯科のサービスを受けられるわけではありません。通院困難な理由がないと訪問歯科診療を受けることはできません。
主に、介護保険をお持ちの高齢者を対象に訪問歯科診療が実施されています。しかしながら、それほど多くの高齢者が訪問歯科診療を受けられていない現状があります。
歯科医院側の理由としては、訪問に行くということは、休憩時間や休日に訪問にお伺いするか、診療時間を切って訪問しないといけないですし、歯科の治療には、多くの機材や材料を持ち運ぶ必要があり、人手も必要です。
歯科は聴診器一つでは訪問に行けません。
訪問歯科診療を受けられる方側の理由としては、そもそもその存在自体を知らない方も少なくないようです。
また、介護現場としては、お口のケアよりも、日々の生活にかかわる身の回りの世話や全身状態の管理など、お口よりも優先されることが多いように感じます。
しかし、実は今政府は歯科の訪問診療を後押しして、年々訪問診療に対する歯科医院への優遇措置を増やしています。
今年の4月に保険点数の改正がありますが、明らかに歯科訪問診療推進の意図を感じます。
政府が訪問歯科診療を歯科医院へ勧める理由は、お口の中の健康管理が様々な疾患の予防や重症化予防に大きく影響することがわかってきたからです。
口の機能が低下している状態を「オーラルフレイル」と呼びます。下は東京大学の飯島勝矢教授の研究です。むせ、食べ物によっての噛みづらさ、滑舌不良などのオーラルフレイル(お口の機能低下)が、栄養状態だけでなく、筋力低下(サルコペニア)や運動機能低下(ロコモティブシンドローム)と関係しています。
当院も訪問診療を行っていますが、訪問先で介護高齢者のお口の中を管理している間は、このようなことにあまり気づきません。
しかし、何かの理由で、訪問による口腔ケアができなくなって、しばらくしてまた、再訪問した時に、口腔機能だけでなく、身体機能、認知機能の低下に驚かされることがあります。
当院の訪問診療の患者さんのケースをご紹介します。
患者さんはもともと、お口の中の状態がよくなくて、ご自宅で上顎に総入れ歯、下顎に部分入れ歯を入れました。
その後は定期的にその訪問先で、口腔ケアをして、お口の中も安定していました。
ある日、家の段差につまずき、転倒されて、足を骨折されて、病院に入院されました。
その後は急性期ということもあって、その患者さんの介護の事を管理なさっているケアマネージャーさんから落ち着いたらまた連絡するとのことで、しばらく、訪問に行けずにいました。
そうすると、入院中に安静期間が長くなり、身体活動が低下するとともに、認知機能も低下したようで、精神科の病院に移られて、そこで、また骨折して再度整形外科の病院に入院することになり、自宅には戻れない状態なので、その後施設に移られました。
この後、ケアマネージャーさんからこの患者さんの事で依頼を再度受けることになりました。
この時には患者さんの正直、誰かわからないくらい、変わり果てていました。
真っ黒だった髪の毛も真っ白になり、普通に立って歩けていた方が、車いすで、斜頸(首が曲がった状態)もあり、お口も緩んで、正直「この方が○○さん?」と目を疑いました。
でもしばらく見ていると、最初の時のちょっとしたしぐさなどから、間違いなく○○さんだと、思い、声かけをしますが、全く返事がありませんでした。
お口の中を拝見すると、入れ歯が全く入ってない状態で、食事も流動食に近いもののようでした。施設の方にお願いして、前の入れ歯を持ってきてもらいました。
下の部分入れ歯は全く合いませんでしたが、上の総入れ歯は幸い何とか使えそうだったので、入れてもらうと、そのとたん顔つきが変わり、目も見開きました。その後、「○○さん」という呼びかけに「はい」と答えてくれました。
実は体やお口の機能が低下している介護高齢者に、いい入れ歯などで、お口の中を整えて差し上げると、言葉数が増えて、笑顔がでたり、車いすの人が立てるようになったりと数々の事例が報告されています。
これは日本歯科医師会の日歯TVの動画です。もしよければ、視聴してください。
車いすの人が庭いじりをできるようになる動画です
http://www.jda.or.jp/tv/01.html
身近で、かかりつけ歯医者のいない介護高齢者がいたら、このようなことをお伝えいただければ、幸いです。
訪問してくれる歯医者さんを見つけるには、ケアマネージャーや最寄りの地域包括ケアセンター、また大阪府歯科医師会が管理する在宅歯科ケアステーションに問合せいただくと、紹介していただけます。
詳しくはスタッフまでお申し出下さい