日本人の死因別死亡数の順位はがん、心疾患、肺炎、脳血管疾患となっています。実はその次の第五位は「不慮の事故」です。厚生労働省は「平成21年度『不慮の事故死亡統計』の概況」という発表のなかで、「主な不慮の事故の種類別にみた死亡数の年次推移」を公表しています。
主な不慮の事故の種類別にみた死亡数の年次推移
厚生労働省「平成21年度『不慮の事故死亡統計』の概況」よりそれによると、1995年から2008年までの13年間でも、交通事故による死亡数は1万5,147人から、7,499人へと半分ほどに減っています。いっぽうで、交通事故を超えて、不慮の事故ナンバーワンになったのが「窒息」です。これはおもに食べものをのどに詰まらせてしまい、息がふさがることを指しているようです。
第3位につけているのは転倒・転落。これからの日本では、高齢者がさらに多くなるため、転倒や転落といった不慮の事故が増えていくことでしょう。65歳以上の高齢者は、転倒骨折により入院で体力低下を余儀なくされ、1年以内に15%以上の方が、5年以内にはなんと50%以上の方が、お亡くなりになっています。窒息や転倒骨折は死亡事故につながらなくても、その後のQOLを著しく低下させます。
そこで、今回は窒息と転倒骨折の予防をお口の中から考えます。
まず、誤嚥、窒息ですが、そのリスクの高い症例の多くは摂食嚥下障害を呈しています。つまり、普段から、のみ見込みが悪かったり、むせが多いと窒息する危険性が高まります。摂食嚥下障害を予防する方法は以下のものがあります。
姿勢調整法・・・頭部前屈位、頸部旋回、リクライニング位
口腔咽頭刺激法・・・アイスマッサージ、味覚刺激法
嚥下訓練法・・・メンデルソン法、頭部挙上訓練
そして、当院の一押しは何といっても箸置き!食事中に口の中が空になるまで、箸を置いて、食べ物を入れないようにして、結果的に多咀嚼を促します。一番、シンプルで効果的な口腔機能のリハビリです。今日から食事を楽しみながら始めてみましょう!
また、要介護高齢者での窒息事故を引き起こす危険因子を危険度の高い順にあげると、食事の自立、臼歯部(奥歯)の噛み合わせの喪失、認知機能の低下です。とりわけ、青年期、壮年期に奥歯の噛み合わせがないと、嚥下機能の予備脳が低下することが報告されており、将来の誤嚥、窒息事故のリスクが高まります。
次に転倒骨折ですが、60 歳を過ぎると開眼片足立ち(目を開けて、片足で何秒立つことができるか)は急激に減少し,5 秒以内の者は転倒ハイリスク者とされています。歯を多く喪失していて、噛み合わせに不調のある人の開眼片足立ちの実験を行ったところ、男性、女性ともに平均20秒も立てなかったのが、噛み合わせを回復することで、開眼片足立ちで男性、女性ともに大幅に改善したとの報告があります。このことから特に高齢者では噛み合わせの不調は体全体のバランスを壊し、転倒骨折の大きなリスク因子になることを示唆しています。
今回、日本での死因第5位の「不慮の事故」について、お口の中から考えましたが、上記のように、これは決して「不慮の事故」ではありません。窒息や転倒骨折は口腔の予防などにより防ぐことができる事故です。もうお分かりですよね。窒息と転倒予防には「箸置きを置いて、よく噛んで、奥歯の噛み合わせを整えること」です。
参考文献
ズバリ!生命保険「『不慮の事故』とはどんな事故?」
厚生労働省「平成21年度『不慮の事故死亡統計』の概況
園田隆紹:日本口腔インプラント誌 第28巻4号
身体的虚弱(高齢者)理学療法診療ガイドライン