「1975年の食事」健康長寿のヒント

東北大チーム 各年代の献立を科学的に分析

健康で長生きするには、1975年ごろの日本の食事がよさそうだ。東北大学大学院の都築毅准教授(食品機能学)らのチームが、こんな研究に取り組んでいます。最新の実験では、実際に1カ月近く当時の食事を食べ続け、効果を確認したといいます。

 

 

肥満度・コレステロール値低下

都築さんらが研究を始めたのは2005年。以前から日本食は健康によいと言われてきましたが、「個別の食材や栄養成分についての研究はたくさんあるのに対し、食事を丸ごと科学的な手法で分析し、根拠を得た研究はあまりなかった」と、都築さんは動機を話します。研究チームは、国の栄養調査や当時の料理番組などをもとに、1960年、75年、90年、2005年の各年について、平均的な1週間の献立を再現して、マウスに食べさせて寿命や病気のリスクなどを調べました。すると、寿命▽肥満度▽認知機能▽糖尿病や脂肪肝の発症リスク▽毛のつや、脱毛などの指標で、いずれも75年のグループが最もよい数値を示しました。2016年からは、92人の協力を得て、実際に食べて効果をはかる実験に移行して、75年の食事と現代食(15年当時)を二つのグループに割り当て、どちらかを28日間続けて食べてもらいました。この結果、軽度の肥満者30人ずつの実験で、現代食のグループが体重、腹囲、BMI(肥満度を表す体格指数)いずれも増えたのに対し、75年のグループは減り、糖尿病の指標、血漿中のコレステロール値なども下がりました。さらに、20代の健康な人でも調査し、週に3回、1時間ほどの運動もしたうえで変化を見たところ、75年のグループは、体重、体脂肪率、コレステロール値が減り、瞬発力、持久力などの運動能力が上がりました。また眠りの質にも向上が見られました。都築さんは「思ったよりも、はっきりした結果が出て驚いた。『1975年型の日本食』が健康に寄与することが科学的に裏付けられた」と話します。

 

 

油少なく魚多い和食+時々洋食 バランス良好

75年ごろの食事には、どんな特徴があるのでしょうか。都築さんによると「和食+ちょっと洋食の食事」で、今と比べ1回の食事でとる食材の種類が豊富だといいます。魚と肉が8対3くらいの割合で、主食はご飯が多いです。油を多く使う揚げ物、炒め物は少なく、味付けには主にだしや醤油など発酵系調味料を使っていました。

 

75年前に比べると、肉やパン、乳製品などの食材が豊かになりました。伝統的な和食は、ごはんを食べるために味の濃いおかずや漬物をよくとり、塩分が多いことが欠点でしたが、食が多様化したことで塩分摂取量が減りました。75年ごろといえば、テレビや冷蔵庫が一般家庭に広まった時期で、68年にはレトルト食品の先駆け「ボンカレー」が発売され、70年代には米国発のファストフード、コンビニエンスストアが相次いで登場しました。流通が発達して多彩な食材が手に入るようになり、雑誌やテレビの料理番組を通じてプロのレシピが全国の家庭に届くようになりました。

 

 

医学博士で管理栄養士の本多京子さんは当時の食事について「コンビニなどが普及しておらず、各家庭で料理をしていた。ご飯とみそ汁におかずの伝統的な食事のよさに、時々ハンバーグやグラタンが加わり、栄養面でバランスがとれていた」と見ます。戦後の摂取エネルギーの推移を見ると、60~70年代ごろが高く、近年は食糧難だった戦後並みにまで減っています。活動量が減ったことに加え、朝食を抜く人がいることなどが影響しているとみられます。本多さんは「自分の都合で好きなように食事ができるようになった結果、食べ足りずに低栄養な人がいる一方で、食べ過ぎでメタボの人もいる」と問題視します。都築さんは「外食や中食を利用する時にも、食材の数を増やし、少しずついろいろなものを食べることが大事。研究をさらに深め、調理や食べ方のポイントをより分かりやすく示せるようにしたい」と語ります。

朝日新聞2018年10月8日(月)

心の病気に「森田療法」

― 不安は「あるがまま」に ―

東京都内の30歳代のA子さんは一昨年1月、かかりつけ医に「強迫性障害(強迫症)」と診断されました。物に触ると気になって手を洗い、「仕事の書類を捨てたかも」とごみ箱を何度も確認してしまいます。抗不安薬を飲んでも改善せず、勤め先を休職しましたが、慈恵医大第三病院(東京都狛江市)で「森田療法」の外来治療を受けて改善、昨年夏に職場に復帰しました。(山口博弥)

 

 

森田療法は、慈恵医大の初代精神科教授、森田正馬が1919年に確立した精神療法で、来年で100年を迎えます。治療対象は、強迫症のほか、動悸や恐怖感に発作的に襲われるパニック症、人前で過度に緊張したりする社交不安症など、主に不安がベースにある心の病気です。近年は、うつ病や心身症の治療にも用いられます。

 

 

 

 

森田療法の特徴は、不安を取り除こうとしないことにあります。例えば、人前で緊張して不安になる人は、不安を「あってはならないもの」と考え、排除しようとします。意識すればするほど不安は膨らみ、さらに緊張してしまうという悪循環に陥ります。

 

 

 

 

森田療法では、不安は自然な感情として「あるがまま」にしておき、緊張してもいいから人前で話してみるように指導します。

そうして本来やるべきことを1つずつ達成するうちに、いつの間にか不安は小さくなっていく、と考えます。

 

 

 

 

 

―「行動のコツ」をつかむ ―

強迫症のA子さんは休職中、慈恵医大第三病院にある森田療法センターに電車で通っていましたが、外出すると確認しなければならないことが多くて疲れ果てます。ある診察日の朝、布団からどうしても出られず、担当の臨床心理士に「診療時間を遅らせて」と電話すると、とりあえず布団から出ること。それから歯を磨き、服を着る。ダメなら、その時に考えましょう」と指示を受けました。言われた通りこなしていくと、電車に乗って時間通りに受診することができました。数か月後、自宅を引っ越すことになりました。夫が仕事で不在の昼間、汚れへの不安を「あるがまま」にして荷造りを母親とこなし、無事引っ越しを終えました。「行動するコツが分かると自信が付き、うれしかった。支えてくれた家族には本当に感謝しています」とA子さん。職場復帰した今、薬も飲んでいません。同病院院長(精神神経科教授)で日本森田療法学会理事長の中村敬さんは「森田療法は、青少年から高齢者まで幅広く適用できる心の健康法でもあり、生きる力を育む指針です」と語ります。今では「モリタ・セラピー」として、中国や北米、オーストラリア、ロシアでも治療が行われているといいます。

 

 

 

 

 

 

 

― 女性の悩みにも ―

森田療法を行う精神科医や臨床心理士の女性3人が著した「女性はなぜ生きづらいのか森田療法で悩みや不安を解決する」(白揚社)では就職、出産、育児、夫の転勤、親の介護など、人生の節目で生き方の選択を迫られる女性の悩みについて、具体例を挙げて森田療法の考え方を生かせた助言を紹介しています。

 

読売2018年9月1日(土)

 

「幸せの寿命」延ばしていく

 

「100歳時代」と聞いて、どんな未来の自分を想像するでしょうか。期待よりも、健康や生活への不安の方が大きいかもしれません。大阪大大学院人間科学研究科の権藤恭之准教授は、100歳以上の高齢者(百寿者)の心理をひもとく調査に取り組んでいます。その結果、多くの百寿者が“幸福感”を維持していることが分かってきました。老いと幸せについて考えるヒントになりそうです。

 

 

 

高まる「良い感情」

「幸せですか?」。権藤准教授は100歳の女性に問いかけました。女性は脳梗塞の影響で寝たきりになっていました。娘と2人暮らしで介護を受けていますが、「体はダメになったけれど、娘の話し相手になってあげられる」と答えたそうです。「『世話になって申し訳ない』といった気持ちがあると想定し、質問で落ち込ませてしまうと躊躇していたので驚きました。百寿者の多くが自身の存在意義を見いだし、幸せそうにしている姿が不思議だった」と研究開始当初を振り返りました。権藤准教授らは平成12年から、2千人以上の百寿者の生活について、面会を中心にした調査を続けています。同時に70歳以上の身体機能や心の変化を追跡しました。社会的役割の喪失や体の衰えといった出来事に直面する一方で、心はどのように変化し、100歳を迎えているのか、調査・分析しています。東京都と兵庫県の7区市町村で、約2300人を対象に実施した調査(12~15年実施)では、70歳・80歳・90歳のグループに分け、体と心の健康を調べました。体の健康では、バランスや歩行速度といった運動能力、栄養状態をみるアルブミン(血液)を測定しました。心の健康は、世界保健機関の精神健康状態に関する質問表(WHO-5)を中心に、楽しい気持ちで過ごす頻度、眠りや目覚めの状態、人生満足度などについて聞き取りを行い、数値化しました。その結果、体の健康は70~80歳は変化しないが、90歳になると標準値より低下します。心の健康は90歳になっても維持され、現状を肯定的に捉える『良い感情』が上昇していました。権藤准教授は「100歳では、身体や認知機能で障害がない人は2%、95%が慢性疾患を抱えています。自立している人もいれば寝たきりの人もいます。しかし、身体の状況に関わらず、心の健康は維持され、幸福感が高い」と指摘しています。

 

老いはいい要素も

なぜ、幸福感は維持されるのでしょうか。権藤准教授は、「老年的超越」「サクセスフルエイジング」といった心理学理論の存在を挙げています。人の発達は青年期(20歳前後)で止まり、後は衰退と喪失の時期だと一般的には考えられていますが、心の発達は高齢期を迎えても続くという考え方です。身体機能低下、家族との死別といった課題に適応することも発達の一つです。見えや物質的豊かさに無関心になり、ありのままを受け入れ、心の内面や少数の人との関係を重んじるように変化していくのだといいます。もちろん、性格や生活環境などの影響も考えられ、解明が進められています。権藤准教授は「健康寿命延伸は重要だが、それでもいつかは体の衰えに直面します。その先にどのような幸せの形があるのでしょうか。『目は悪いけれど、家族の様子はまだ見える』というように、失われたことにこだわらない視点の変化が大切です。高齢者研究は、100歳時代の未来を提供することです。老いにはいい要素もあります。幸せの寿命も延ばしていきたい」と話しています。

 

 

お口の健康と認知症

 

オーラルフレイルと認知症との関係

フレイルとは「高齢者が、身体だけでなく社会性も精神面も弱っていくこと」を指しています。

フレイルに先がけて、口まわりの“ささいな衰え”と呼ばれる食べこぼしや、むせなどがオーラルフレイル(口の虚弱)でフレイルの前段階の現象として見られるものです。

 

 

 

 

 

 

自分の歯が残っている人、残っていない人で健康状態はどう違う?

 

 

自分の歯が残っていない人の特徴のひとつに認知症になりやすいということがあります。

上の図は歯の数、義歯(入れ歯)の使用と認知症発症との関係を表しています。
認知症の認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象に4年間の観察研究を行った結果によると、性別・年齢・生活習慣などにかかわらず、「自分の歯がほとんどなく、義歯を使っていない人は、自分の歯が20本以上残っている人にくらべて、1.9倍も認知症の発症リスクが高い」ということがわかっています。

さらに「自分の歯がほとんどなくても、義歯を使って歯のない部分を補っていれば、認知症の発症リスクを4割ほど抑えられる可能性がある」ということも報告されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

また、自分の歯が20本以上残っている人をハザード比(認知症の発症リスク)1.00としたとき、「自分の歯がほとんどなく、義歯も使っていない人は、自分の歯が20本以上残っている人にくらべて、ハザード比が1.85、さらに、「かかりつけの歯科医院がない人は、かかりつけの歯科医院がある人にくらべてハザード比が1.44、口腔衛生の心がけがない人は、口腔衛生の心がけがある人にくらべてハザード比が1.76と自分の歯が20本以上残っている人とくらべると認知症の発症リスクが高くなっています。

 

 

 

 

 

噛むことの大切さ

噛むという動作には、舌の筋力をきたえたり、唾液の分泌をうながしたりするだけでなく、脳の働きを活発にする効果も認められています。そのため、歯や口腔の疾患(う蝕、歯周病など)やオーラルフレイルなどの影響で、噛むという動作に支障が出てくるようになると、間接的に認知症の発症リスクを高めてしまうことにもなるのです。
オーラルフレイルの人が全員、認知症になるとは限りませんが、「自分の歯でよく噛んで食べる」ということは、認知症予防に少なからず影響しているといえるでしょう。

 

 

 

 

参考著書:オーラルフレイルQ&A 口からはじまる健康長寿
平野浩彦 飯島勝矢 渡邊裕

 

認知障害6割認知症に 日本人対象研究 3年以内進行

軽度認知障害(MCI)とは日常生活には大きな支障が出ていない、認知症と正常の中間の状態です。生活上の支障が大きくなると認知症と診断されます。国の推計(2012年)では、認知症の高齢者462万人に対し、軽度認知障害は400万人。認知症の前段階といわれる軽度認知障害と判定された日本人の6割が、3年以内に認知症に進行したとの研究結果を、東京大など38研究機関のチームが9日、米科学誌に発表しました。アルツハイマー病では、認知症発祥の20年ほど前から、異常なたんぱく質アミロイドβ(Aβ)が脳内に徐々に蓄積すると考えられています。米国の同様の研究でも軽度認知障害の人の60%が、3年以内に認知症に進行しており、近い値でした。定期的に記憶力などをみる認知機能検査を行って測定した悪化のスピードも、日米でほぼ一致していました。研究代表者の岩坪威・東大教授は「アルツハイマー病の認知症発症までの進行過程は、日本人も米国人と同様であると確認でき、治療薬の開発研究は、世界と共同で加速するべきだ」と話します。「認知症予防に効果的」と言われる食材はたくさんあるが、何をどのように食べればいいのでしょうか。最新の研究では「偏食せず何でも食べる人」ほど認知機能が下がるリスクが低いという結果が出ました。

 

偏食せず何でも食べる 認知症に備える

大阪市にある国立長寿医療研究センターでは、地域の高齢者約2300人を対象に、1997年から大規模な追跡調査を実施し、認知症予防に関する研究を幅広く続けています。食事に関する研究もその一つで、魚や乳製品を食べることは、認知症につながる認知機能低下を抑える効果があるという研究結果が出ました。中でも2016年にセンターが発表した研究成果では、偏食せず何でも食べると、認知機能低下を抑えることが示されました。

 

 

・品数多いほど効果

国立長寿医療研究センターが16年に発表した研究結果では、一度の食事でより多い品目を食べている「多様性の高い食事」の人ほど、認知機能低下のリスクが下がることが分かりました。研究では、60~81歳の570人について、連続3日間の食事の献立を記録し、穀類や野菜類、肉類などそれぞれの食品群の品目の多さで1回の食事の「多様性スコア」を計算しました。たとえば、朝食をパンとコーヒーだけで済ませる人ほどスコアが低く、みそ汁やご飯、漬物、卵焼きなど、品数や使われた食材の種類が多い人ほどスコアが高くなります。スコアが最も低いグループに比べて、最も高いグループは、認知機能低下のリスクが44%低くなるという結果が出ました。研究によると、多様性スコアが高い人ほど果物や乳製品、豆類、肉、魚などをより多く食べていました

 

 

 

競技人口増へ県内期待 高齢者ら始める契機に ゴルフに認知症予防効果

ゴルフが認知症予防に効果があります。国立長寿医療研究センター(愛知県)などが公表した研究結果に、県内でも期待の声が上がっています。適度な運動やスコアを数える脳トレ要素他のプレーヤーとの交流などが認知機能低下の予防に効果的とされています。

教室運営マニュアルも

研究は同センターとゴルフ関連団体「ウィズ・エイジングゴルフ協議会」(東京都)、東京大、杏林大の共同で実施しています。2016年10月から半年にわたり、ゴルフ教室への参加前後の記憶検査結果などを検証しました。習慣的にゴルフをしない65歳以上の男女計106人が参加しました。ゴルフ教室に参加した男女53人の記憶検査結果をみると、単語記憶能力が6.8%、物語を聞いて設問に答える論理的記憶能力が11.2%向上しゴルフ教室に参加せず健康講座を受けた男女53人には変化がありませんでした。同センター予防老年学研究部の島田裕之部長は「適度の運動やスコアを数えることなどが、認知力低下の予防につながっている」と分析し「ゴルフは魅力的な予防ツールになる」と話しました。

 

 

このようになんでもおいしく頂いて、楽しくゴルフをして認知症予防を心がけてみてはいかがでしょうか。次回は認知症とお口の関係をお話しします。

参照:医療と健康(20186)

p35ゴルフに認知症予防効果(201852日 下野新聞)

p36認知症に備える 偏食せず何でも食べる(2018520日 毎日新聞)

 

週末寝だめは危険、長期化で心身に悪影響

先進国中、最も平均睡眠時間が短い日本中でも平日の睡眠不足とそれを補う週末の寝だめを繰り返す睡眠変動は「社会的ジェットラグ(時差ぼけ)」と呼ばれ、健康への影響が心配されています。

 

 

 

 

「長時間続くと大きな疾患のリスクになる。平日に睡眠を分散させる工夫が必要だ」と国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所(東京)精神生理研究部の三島和夫部長はアドバイスしています。

 

社会的ジェットラグは、仕事などで個人の体内時計(生体リズム)に合わない生活スケジュール(社会時刻)を強いられることで心身の不調を生じる状態。何かとやりくりできることから延々と続きやすいです。

 

週末の寝だめで眠気は取れるが、心身への悪影響は回復しないことが研究で分かってきている。多くの人が自覚しない睡眠不足を抱えている可能性が高い」と三島部長は話しています。

 

個人の睡眠習慣は入眠時間帯必要睡眠時間の組み合わせで決まります。社会的ジェットラグの計算法は平日の睡眠中央時刻と休日の睡眠中央時刻の差。例えば平日0時~6時、週末2時~11時の睡眠の人はそれぞれ中央時刻が3時と6時半なので差は3.5時間です。

 

三島部長は「こういう人は結構いる。これは毎週末、インドに旅行している生活と同じ。何とかなるが、それなりに負担がかかる。」と話しています。

 

 

若い世代で顕著

調査によると、世界の実態は社会的ジェットラグ1時間以上の人が約7割おり、特に若い世代で顕著だといいます。週末に寝だめする生活は、いったんはまると悪化します。平日の短時間睡眠→週末の寝だめ→週明けの寝起き困難→午前の日照暴露の減少→就寝時刻の後退、と悪循環になります。

 

 

 

 

 

朝の光を浴びる

三島部長は「朝の光を規則的に浴びる(目に入れる)ことが非常に大事。午前中、起きて4時間以内の光は体内時計を前進させ、早起きしやすくする。夕方から深夜の光は体内時計を後退させて夜型が進む。特にパソコンなどで青色光(ブルーライト)が体内時計に作用することが分かってきた。」と話しています。

 

目に入る光は体内時計を介して覚醒作用や抗うつ作用、自律神経の調整、血糖の調節などの効果があるといいます。社会的ジェットラグの健康リスクは、食欲増進による肥満、インスリン抵抗性の上昇で糖代謝に悪影響、悪玉のLDLコレステロール上昇、認知機能の低下、メタボリック症候群の増加、メンタルヘルスの悪化、口腔乾燥などが報告されています。

 

三島部長は「数カ月続けるのはいいが、10年~30年も続けると大きな疾病のリスクにつながる。この脱却には、まず朝の光を浴びること。そして夜の光を避けること。3~4週間リズムを保つと、リバウンドが起こらずに寝付けて安定し、だんだん朝起きの苦しみが緩和する。」と話しています。

 

一方、年代的に夜型が最も強いのは20歳前後です。欧州の6万人のデータは思春期・青年期は早起きが苦手であることを示しています。一部の人は気力だけでは乗り越えられないこともあるといいます。

 

三島部長は「問題は、いくら仕事があっても、その人が睡眠に価値を見出せるかどうかに尽きる。少なくとも長期的にはリスクがあるということを知ってほしい」と話しています。

参考:山梨日日(共同)2018年4月3日(火)

胃がんとピロリ菌

胃の中には塩酸(胃酸)があって、pH(ピー・エイチ)で1から1.5程度と非常に強い酸性に保たれています。ところが、わざわざ胃の中にすみついている細菌がいます。それがピロリ菌です。図2は、胃潰瘍などの患者さん1526人の胃の中を調べ、ピロリ菌の有無を確かめたうえで、胃がんが起こるかどうかを平均8年弱観察した結果です。観察期間中、36人に胃がんが発生しました。ところが、すべてピロリ菌がいた人たちからで、ピロリ菌がいなかった人たちからの発症はゼロでした。ピロリ菌の有無と胃がんの発症との関連を調べた研究はほかにもありますが、これほどはっきりした結果が得られたのはまれです。いずれにせよ、ピロリ菌と胃がんとの関連は確実と考えてよさそうです。ピロリ菌は除菌できますが、除菌してしまえば安全安心とはいいきれないようです。除菌によって胃がんの発症を減らせるのは確かですが、ゼロにはできないからです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遺伝子よりも生活習慣

胃がんは日本人にとって多いがんの代表ですが、ほかの国ではかならずしもそうではありません。たとえば、アメリカ人やカナダ人における発症率は日本人のわずか8分の1です。そして、世界的には、日本、韓国、中国などの東アジア諸国に特異的に多いがんとして知られています。遺伝子の違いもあるかもしれませんが、アメリカに移住した日本人の子孫の胃がん発症率は、アメリカに住む白人並みに低くなっていくことも知られています(図3)。この事実は遺伝子よりも生活習慣の影響のほうが大きいことを示しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胃がんと食塩

図4は、食事習慣と胃がん発症率との関連を検討した結果です。この研究は、漬物、タラコ・スジコ、干物・塩蔵魚から摂取した食塩量が多かった人ほど胃がん発症率が高かったことを示しています。すなわち、食塩は高血圧と胃がんという日本人にとって特に注意すべき2つの生活習慣に関連しているらしいと考えます。ところが不思議なことに、みそ汁から摂取した食塩量や、調理や卓上で使う食塩量とは関連が認められませんでした。そして、食品すべてから計算した総食塩摂取量とも関連が認められていません。かならずしもすべての研究結果が一致しているわけではありませんが、これまでに行われた研究結果をまとめると、総食塩摂取量よりも、塩辛い食品の摂取量や摂取頻度のほうが胃がんの発症に強く関与しているとなります。食塩は発がん物質ではありません。それにもかかわらず、なぜ、食塩は胃がんの原因になるのでしょうか?そして、なぜ、食塩の総摂取量よりも、塩辛い食品から摂取する食塩のほうが胃がんの原因になるのでしょうか?くわしいメカニズムはまだ明らかになっていませんが、胃の壁が高濃度の食塩にさらされると胃の粘膜が傷つけられ、発がん性を持つ物質に触れやすくなり、がんの発症率が上がるのではないかとする仮設があります。しかし、私たちに必要なのは、細かいメカニズムではなくて実効策、つまり、食塩濃度の高い食品は控えることです。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お医者さんより電気屋さん

日本も含めていくつかの国で、家庭用冷蔵庫が普及するにつれて胃がんが減る傾向が認められています。1960年にはわずか1割だった保有率は、その後わずか10年で9割に達しました。洗濯機とテレビも急速に普及したので、胃がん死亡率の推移を冷蔵庫保有率の推移と安易に結びつけてはいけませんが、ほかの研究成果も考慮すれば、冷蔵庫の普及→塩蔵保存の必要性の低下→高食塩食品摂取量の減少→胃がん発症率の低下(→死亡率の低下)という流れが想像されます。というわけで、胃がんの減少に最も貢献した職業はお医者さんではなくて、街の電気屋さんだったかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

参考著書 佐々木敏のデータ栄養学のすすめ 佐々木敏

習慣

今回の健康ブロブは「習慣」についてです。

 

 

 

 

 

 

 

この絵は、画家ビーテル・ブリューゲルが1567年に描いた絵「怠け者の天国」です。

中央で寝ころがっている3人の男はなにもしていなくても食べ物が自然に口に入ってきて、何もする必要のない世界に住んでいます。

ローストされた豚とゆで卵がナイフ付きで走りまわり、ワインは口の中に自然に落ちてきます。

左奥に見える小屋の屋根はヴラーイ(丸いタルト)で葺かれ、男は口をあけて焼き鳥が飛び込んでくるのを待っています。

「怠け者の天国」は、なんの努力もなく食べ物がどんどん口に入ってくる世界がいかに愚かなものであるかを風刺した絵です。

当時、下ごしらえも調理もなしに食べられる食べ物はほとんどありませんでした。

それどころか、この絵に描かれているどの食材もふんだんにあったとは考えられません。

空腹と飢えが日常で、満腹と飽食は貴族だけの特権だったはずです。

庶民は食べること、生きることに必死でした。その時代に、人間が持つ3つの大罪、怠情と美食と大食をこんなに楽しい絵で表現してくれました。

かつては貴族だけの特権であった便利で飽食が当たり前の現代社会で自分を律するのは450年前と比べてさらに難しくなっています。

「習慣が変われば人生が変わる」

これは2500年前に古代ギリシャの哲学者アリストテレスが言った言葉です。

僕自身がこの10年自分の習慣に向き合い続けて、しみじみ響く言葉です。

習慣をどのように自分のものにするかできるかを考えて、まず皆さん自身が行動変容にトライして頂きたいと思います。

 

どのような行動も習慣になるまで、必ず以下のようなスッテプで進みます。

例えば、歯磨きをするしぐさをしてみてください。おそらく慣れたものなので、ほかの事を考えたりしながら、ほとんど無意識に歯磨きができるはずです。

これが図の④無意識に「やっている」段階です。では、次は反対の手で磨くしぐさをしてみてください。

何か違和感があるのではなでしょうか。「ちゃんと磨けているか」「毛先が届いているか」といろいろ考えて、磨いているのではないでしょうか。

これが図の中の意識的に②「知っている」から③「できる」の間の状態ということになります。

習慣を身につけるためには、①無意識の「知らない」ことを意識的に②「知っていること」③「できること」をへて、④無意識に「やっていること」へ押し上げる必要があります。

そこで、一番重要になるのが、最初の段階の①無意識の「知らない」部分です。無意識とは潜在意識です。

潜在意識は皆さんの人生の様々な経験によって構築されていて、あなたにとって「安心安全第一で働く」という特徴があります。

ですから、長い経験によって安心安全第一を優先して、形成された潜在意識は基本、「現状維持」を好みます。

習慣化を成功させるためにはこの潜在意識の安心安全の欲求を満たしながら進めることが肝心です。 

他人からのアドバイスを実行することを、頭では正しいとわかっていても、なかなか実行できないのは、この潜在意識の強烈な抵抗にあうからです。

では、どうしたら潜在意識の安心安全の欲求を満たしながら、習慣化を成功に導いていくのでしょうか。

超簡単です。なるべく苦痛の感情を作らないようにして、頑張りすぎないことです。

そして、一つのことに集中することです。複数のことを習慣化したい場合も優先順位を決めて、なるべく一つに絞って、取り掛かることが肝要です。

そして、一つの小さな成功体験を経験することで自己効力感(自分もやったらできるという感覚)が生まれ、さらなる行動変容を助けます。

また、最初の段階で最も重要なことは「成果を上げること」ではなく、「定着させること」です。

例えば、ウォーキングであれば、苦痛をともなって、なんとか毎日5キロの成果を上げるより、毎日300メートルでも楽に定着させることが一番重要です。

3か月続いて物足らなくなったら、距離を少しずつのばせばいいのです。

このように潜在意識が安心している状態をうまく維持しながら、①「無意識で知らないこと」から段階的に④「無意識にやっていること」へ潜在意識のプログラムを時間をかけて変えていきます。

そして大事なことは、無意識にできるようになるまでの過程を楽しむことです。

 

アリストテレスの言葉「習慣が変われば、人生が変わる」を思い出しながら、健康習慣を少しずつ楽しみながら、あなたの人生を、よりよい人生に変えてみましょう。

訪問歯科診療って?

 

 訪問歯科診療って?

 

訪問歯科診療って、ご存知ですか。

実は、家にいながら歯医者さんがご自宅や施設にお邪魔して、治療を受けることができます。

もちろん、保険診療です。

 

しかし、誰でも歯科のサービスを受けられるわけではありません。通院困難な理由がないと訪問歯科診療を受けることはできません。

主に、介護保険をお持ちの高齢者を対象に訪問歯科診療が実施されています。しかしながら、それほど多くの高齢者が訪問歯科診療を受けられていない現状があります。

 

歯科医院側の理由としては、訪問に行くということは、休憩時間や休日に訪問にお伺いするか、診療時間を切って訪問しないといけないですし、歯科の治療には、多くの機材や材料を持ち運ぶ必要があり、人手も必要です。

歯科は聴診器一つでは訪問に行けません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訪問歯科診療を受けられる方側の理由としては、そもそもその存在自体を知らない方も少なくないようです。

また、介護現場としては、お口のケアよりも、日々の生活にかかわる身の回りの世話や全身状態の管理など、お口よりも優先されることが多いように感じます。

 

しかし、実は今政府は歯科の訪問診療を後押しして、年々訪問診療に対する歯科医院への優遇措置を増やしています。

今年の4月に保険点数の改正がありますが、明らかに歯科訪問診療推進の意図を感じます。

政府が訪問歯科診療を歯科医院へ勧める理由は、お口の中の健康管理が様々な疾患の予防や重症化予防に大きく影響することがわかってきたからです。

 

口の機能が低下している状態を「オーラルフレイル」と呼びます。下は東京大学の飯島勝矢教授の研究です。むせ、食べ物によっての噛みづらさ、滑舌不良などのオーラルフレイル(お口の機能低下)が、栄養状態だけでなく、筋力低下(サルコペニア)や運動機能低下(ロコモティブシンドローム)と関係しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当院も訪問診療を行っていますが、訪問先で介護高齢者のお口の中を管理している間は、このようなことにあまり気づきません。

しかし、何かの理由で、訪問による口腔ケアができなくなって、しばらくしてまた、再訪問した時に、口腔機能だけでなく、身体機能、認知機能の低下に驚かされることがあります。

 

当院の訪問診療の患者さんのケースをご紹介します。

患者さんはもともと、お口の中の状態がよくなくて、ご自宅で上顎に総入れ歯、下顎に部分入れ歯を入れました。

その後は定期的にその訪問先で、口腔ケアをして、お口の中も安定していました。

ある日、家の段差につまずき、転倒されて、足を骨折されて、病院に入院されました。

その後は急性期ということもあって、その患者さんの介護の事を管理なさっているケアマネージャーさんから落ち着いたらまた連絡するとのことで、しばらく、訪問に行けずにいました。

そうすると、入院中に安静期間が長くなり、身体活動が低下するとともに、認知機能も低下したようで、精神科の病院に移られて、そこで、また骨折して再度整形外科の病院に入院することになり、自宅には戻れない状態なので、その後施設に移られました。

この後、ケアマネージャーさんからこの患者さんの事で依頼を再度受けることになりました。

この時には患者さんの正直、誰かわからないくらい、変わり果てていました。

真っ黒だった髪の毛も真っ白になり、普通に立って歩けていた方が、車いすで、斜頸(首が曲がった状態)もあり、お口も緩んで、正直「この方が○○さん?」と目を疑いました。

でもしばらく見ていると、最初の時のちょっとしたしぐさなどから、間違いなく○○さんだと、思い、声かけをしますが、全く返事がありませんでした。

お口の中を拝見すると、入れ歯が全く入ってない状態で、食事も流動食に近いもののようでした。施設の方にお願いして、前の入れ歯を持ってきてもらいました。

下の部分入れ歯は全く合いませんでしたが、上の総入れ歯は幸い何とか使えそうだったので、入れてもらうと、そのとたん顔つきが変わり、目も見開きました。その後、「○○さん」という呼びかけに「はい」と答えてくれました。

 

実は体やお口の機能が低下している介護高齢者に、いい入れ歯などで、お口の中を整えて差し上げると、言葉数が増えて、笑顔がでたり、車いすの人が立てるようになったりと数々の事例が報告されています。

 

これは日本歯科医師会の日歯TVの動画です。もしよければ、視聴してください。

車いすの人が庭いじりをできるようになる動画です

http://www.jda.or.jp/tv/01.html

 

身近で、かかりつけ歯医者のいない介護高齢者がいたら、このようなことをお伝えいただければ、幸いです。

訪問してくれる歯医者さんを見つけるには、ケアマネージャーや最寄りの地域包括ケアセンター、また大阪府歯科医師会が管理する在宅歯科ケアステーションに問合せいただくと、紹介していただけます。

詳しくはスタッフまでお申し出下さい

世界一長寿国、香港の長寿の秘訣と、日本が長寿世界一の座を取り戻す方法とは?

香港が2年連続で男女ともに平均寿命世界一となり、注目を集めています。世界有数の長寿国である日本も及びませんでした。この香港の長生きの秘訣を紐解いてみましょう。

 

香港のお年寄りの一日は公園で軽い運動に始まります。この写真は僕が友人と香港に小旅行に行った際に朝、ジョギングがてら公園に立ち寄った時に撮った写真です。車いすの人も体操していたのにはびっくりしました。軽い運動の後、お茶をしながら、会話を楽しみます。

 

また香港ではお金や保険の有無に関係なく、西側諸国と同じ水準の医療が受けられることも長寿の理由の一つと言われています。住民IDカード保持者は公立病院の一般・専門外来を50~135香港ドル(約700~約2000円)で受診でき、75歳以上の低資産者は基本医療費が無料。65歳以上の住民には年間2千香港ドルの医療チケットも配布させてます。喫煙率も15年時点で10.5%(日本:男性28.2%、女性9.0%)と低水準です。

 

 

 

さらに香港人はお年寄りを敬い、家族の絆が強いそうです。狭い土地に多くの人が暮らす人口過密都市ですが、家族の行き来には便利で、週末に一家で飲茶を楽しむ光景もよく見られます。親と別居していても親元にいつでも駆け付けられるし、親孝行もできるということです。また、お年寄り同士の友人も頻繁に会いに行くことができ、孤独を感じることも少ないそうです。

 

 

実は、人との関わりやひきこもりが特に高齢者の健康度と大きく関係していることがわかっています。香港が人口過密都市ということは、裏を返せば、不衛生で、公害、大気汚染などのリスクをはらんでいます。中国からの黄砂やPM2.5の影響を日本よりはるかに影響を受けるはずです。しかし日本をしのいで長寿世界一を達成している背景には、外的環境因子よりもいい人間関係が健康に影響を及ぼしているからだと考えます。

 

 

そして、実はかかりつけ歯科医を持つことは人間関係やひきこもりと関係があります。かかりつけ歯科医の有無と外出頻度や友人、近所付き合いを調べた研究があります。下の表のように、「外出頻度」では、かかりつけ歯科医を持つ群では、男性50.9%、女性38.2%が「ほとんど毎日外出する」と答えました。これはかかりつけ歯科医を持たない群の男性47.1%、女性30.7%を有意に上回ります。逆にめったに外出しないと答えた人はかかりつけ歯科医も持つ群では、男性4.5%、女性5.9%であるのに対して、かかりつけ歯科医を持たない群はそれを大きく上回り男性8.8%、女性15.6%という結果になりました。これはつまり、「かかりつけ歯科医も持つほど、外出頻度が高い=お出かけ好きである(ひきこもらない)」ということを示しています。

 

「友人、近所付き合い」に関しては、かかりつけ歯科医を持つ群で「ほとんど毎日」と答えた人が男性13.3%、女性14.3%に対してかかりつけ歯科医も持たない群では、男性11.1%、女性10.7%であり、これも有意差がみられました。

 

事実、下の図のようにかかりつけ歯科医を持つ群は持たない群と比べて、長生きすることもわかっています。

 

 

日本は歯科の定期健診受診率が世界的に見て低水準です。全国の歯科医院が定期健診に力を入れて、国民の歯科定期受診の関心がもっと高まれば、香港から長寿世界一の座を取り戻す日も遠くないかもしれませんね。

 

 

参考資料 香港、平均寿命世界一:福島民友(共同)2017/12/17

なぜ、「かかりつけ歯科医」のいる人は長寿なのか?:星 旦二